サラリーマンが登場する不倫小説
年末年始に不倫小説をネットで探しまくった。
不倫小説なら何でもいいというわけではなく、前提条件として、サラリーマンが主人公、もしくはサラリーマンが登場するもの。
なぜかって、自分にできるだけ近い人が出てきた方が、よりリアリティがあるから。
その条件に加えて。
・文章が幼稚でない
・ドロドロしていない
・いかにも現実にありそう
・サスペンス要素無し
・主人公が病気にならず、死ぬこともない
・不倫小説にもかかわらず読み終わった後の後味が悪くない
このような私が好む条件まで付け加えたところ、数冊に絞られてしまった。
オススメ度第一位は「ありふれた魔法」(盛田隆二著)
その数冊をまとめて買い、ちょうど先日、読み終わったところ。
結果、ある一冊が、断トツでおもしろかった。
それは。
「ありふれた魔法」
超王道なら「不機嫌な果実」と「失楽園」
なお、次点は「不機嫌な果実」。
「あー、きっとそんな感情生まれるよなー」という表現はお見事。
後味も悪くなく、何度もテレビドラマになるのは納得。
さすがの超王道。
ちなみに、もう一つの超王道「失楽園」は、男女の絡みがあまりにも多すぎて、個人的にはあんまり・・。
ただ、その部分におもしろさを感じられる人は読む価値あり。
ところで。
なぜ突然、不倫小説の話をしたかというと。
もちろん、あいつの影響を受けて。
現実に不倫をするのは私の恋愛技術ではなかなか難しそうなので、とりあえず空想の世界から入ってみたわけだ。
銀行マンの社内恋愛
さて、その「ありふれた魔法」の内容はというと。
妻子ある44歳の銀行マン「秋野智之」が、部下である26歳の「森村茜」と恋に落ちていく物語。
あとは、細かく書き過ぎても良くないので、個人的にグッときた文章だけを完全抜粋。
「顎をつまんで顔をかしげ、静かに唇を重ねあわせる。そのシーンが一瞬脳裏をよぎったが、いや、だめだ、この一線を越えてはいけない、と智之は自分を戒め、片手を伸ばしてボタンを押した。エレベーターはすぐに下降しはじめた。」
「妻の仁美が健斗を連れて街に出かけ、そのあいだ智之は鈴花と史人と三人でシュノーケリングをしたが、まぶしいほど白い砂と透明な海が百メートル近く続く遠浅のリーフをゆっくりと進みながら、茜ならぜったいに買い物よりもこっちを選ぶはずだと思い、遊び疲れてホテルに戻り、海に沈む夕日をテラスで眺めながら、この風景を茜にも見せてあげたいと思い、夜、泡盛を飲み、島の料理をたらふく食べながら、池袋にうまい沖縄料理を食べさせる店はないだろうかと思い、そんなふうに気づくと茜のことばかり考えていた。」
「智之はすし屋を出ると酔ったふりをして、神楽坂の薄暗い路地を茜と手をつないで歩いた。茜も足元をふらつかせ、腕に腕を押しつけるようにしてもたれかかってくる。その華奢な肩を抱き寄せていいものかどうか迷っていると、表通りに出る前にすっと身体を離してしまう。そんなときの茜の気持ちをどう理解したらいいのか。」
「外苑の出口が見えてきたところで、智之はふと足を止めた。「どうなされましたか?」と茜が訊いた。智之は答えずに、適度な酔いとスキンシップがもたらす幸福感に身をゆだね、茜の唇をじっと見つめた。涼しげできりっとした目元ではなく、光沢のあるルージュの引かれた唇をうっとりと眺めた。どれくらいそうしていただろう。茜は根負けしたようにまぶたを閉じ、わずかに顎を上げた。目のふちがかすかに赤く染まっている。」
「中学生なら軽くキスをするだけで、天にも昇る気持ちになれるだろう。だが、四十男の欲望は露骨で無遠慮で、節度というものがない。ここで唇を重ねたら、たちまち上司と部下の関係を踏み外し、妻を裏切ることになる。そうまでして茜を抱きたいのか? いや戯れに手をつないで歩くだけでいまは十分に満ち足りている。プラトニックな関係だからこそ、ふたりだけの時間がこんなに楽しく、そして切ないのだ。踏み外してはいけない。職場の上司として、妻子持ちの男として、ここは自制しなければならない。」
競馬のトゥインクルレース・SNSのミクシィ・スピッツのロビンソンというそんな時代なので、30代~50代のサラリーマンで社内恋愛や不倫に少しでも興味ある人には、圧倒的オススメ。